ひと言集

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平成18年7月27日

7月のことば

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「這う、いざる」

 私の住む町は、最寄の駅へ行くまでに、数件の農家があります。どちらのお宅も門前で、朝取れたばかりの花や野菜を売っています。私も時間があるときは、籠を持って野菜を買いに出かけるのを楽しみにしています。ことに夏から秋にかけて絶え間なく咲く菊が大好きです。たくさん菊を飾って、家の中が菊の香りであふれる。私にとって至福の時です。

 何時も菊を買う農家の菊畑は、毎年草一本ないくらいに手入れされています。ところが今年の菊畑には野草が一杯茂っています。笑顔のきれいな農家の奥さん(80歳位)に、「どうかなさいましたか」と尋ねたところ、「この雨続きの畑で滑って転び、腰椎がずれたため、腰の痛みが強く、やっと起きているのよ」ということでした。「寝ているときだけ痛まないけれど、ずっと寝てばかりいられないしね。年だから治らないかもしれないね」と悲観的でした。

 元気な方で、お正月以外は花や野菜の手入れをし、訪れる人と親しく話を交わす気さくな方ですが、今回の転倒はかなり辛いようです。

 「転倒」は虚弱な高齢者、特に認知症高齢者にとって大きな問題です。過日特別養護老人ホームで「転倒予防について」相談を受けました。90歳を過ぎたGさん(男性)は、認知症があるために、周囲の状況がわかりませんでした。或るときベッドから転落して、大腿骨頚部骨折を起こし、手術をしました。その後のリハビリテーションが思うように行かず、車椅子の生活になりました。Gさんは立って歩くことが出来ないために、トイレに這っていくそうです。日中はスタッフが気づいて、トイレ誘導をしていますが、夜間は人手も少ないために、スタッフが気づいたときは、トイレに這ってきて、便座の脇の手すりにつかまり、立ち上がって便座にかけて排泄を済ませるそうです。

 再度転倒しないように、ベッドをはずし、床にマットレスを敷いての生活に替えたそうですが、夜間トイレに這って行くことが心配なので、よい方法はないだろうかと言うことでした。

 立って歩くことが出来ない認知症高齢者の中に、「這う、いざる」という方法で目的を達成している方を時々見かけます。床は汚いから這わないでほしい。とスタッフが思うのは当然なことです。でも、トイレの場所が分かるGさんは自分の欲求は人手を借りないで、行いたいと思っているのでしょう。「這う」と言うことは、Gさんにとっては、リハビリテーションの一つです。また排泄をしたいと思うとき、自分で出来るということは、Gさんにとっては当たり前なことですし、自立・自尊につながります。

 床は常に清潔を保つように配慮し、Gさんの「這う・つかまり立ち」という行動を積極的に支援することも一つのケアの形ではないでしょうか。

 昔の日本人の多くは畳の生活をしていました。Gさんの知っている人の中に、下肢または半身に麻痺のある人が居て、這う姿やいざる姿を目にしたことがあったのかも知れません。あるいは「目的達成のために這う」と言うことは、人間の本能かもしれません。皆さんはどう思いますか、よい方法がありましたら教えてください。

 うっとうしい梅雨空も間もなく明けるでしょう。明るい気持ちで、健康に留意されて日々のお仕事にお励みになってくださいませ。