ひと言集

文字サイズ:

画像の説明

平成19年2月19日

2月のことば

画像の説明

「再動機づけ」その1

 いつも笑顔の絶えないSさん(72歳、男性)の部屋の片隅に、フラフープが置いてありました。「え、フラフープなさるの?」「いやいや」とSさんは首を横に振りました。10年ほど前に脳卒中を起こしたSさんは言語障害があるため、言葉によるコミュニケーションは難しい状態です。右上下肢に麻痺がありますが、杖なしで歩行ができていますし、利き手交換ができていて、左手で身の回りのこと、食事、排泄などそれなりに自立しています。文字も書くことができます。

 Sさんは左手でフラフープをとって、頭からかぶり、固く握りこぶしを作った右手の指を1本ずつ広げてフラフープを握らせました。フラフープに付いているジーンズの生地の細い紐を右手に巻きつけて、フラフープから手が外れないようにしました。左手でフラフープを前方右寄りに動かすと、肘から曲がって胸に付いたきり動かない右腕が身体から離れました。左手でフラフープを押し出すと右腕が開き左手を引くと右腕が戻ります。「ワーすごい」と思わず拍手を送りました。

 Sさんが前向きな生活をしていることは知っていましたが、リハビリ用具まで考案しているのに驚きました。「倒れて直ぐからリハビリの工夫を始めたの?」「いや」と言うように頭を左右に振りました。愚問でした。

 元気で活躍していた人が、突然倒れ身体の自由を失ったとき、驚き、不安、怒り、自信喪失、落ち込みなど多くの苦しみを味わうでしょう。リハビリテーションを始めても短時間では思うように回復しません。何よりも倒れる以前の状態に戻れないことへの落胆などなど、ご本人でなければわかりません。

 家族や周囲の人の励ましもありますが、自ら障害とともによりよく生きようと思い、行動するに至るまでには、言葉では表せないほどの多くの思いがあることでしょう。

 高齢になって病気や障害に出会うと、「もう年だから、人の世話になるなんて耐えられない。こんな不自由な身体で生きていても仕方がない。早くお迎えが来てほしい」などと思い、自信を失ってしまいます。また不安が強まり短時間でも一人でいられないようになる方や閉じこもりがちになってしまう方もいます。障害を受けた部位、広さなどで一様にはいきません。

 老年者のQOLプログラムの一つに「再動機づけ」というのがあります。病気や障害によって生きることに興味を失った人が、治療スタッフや家族との交流を通して、生活や環境に再び興味を抱くようになることです。

 高齢になって病気や障害を受けても、人間にはよく生きたい、よりよく生きる、自己実現するという潜在能力があります。

 実は「再動機づけ」をスタッフは気づかないで日常生活支援の中で行っています。次回はそうした事例を紹介しましょう。