ひと言集

文字サイズ:

画像の説明

平成19年3月7日

3月のことば

画像の説明

「再動機づけ」その2

 Kさんが週3回介護保険ヘルパーとして訪問ケアしているBさん(80歳、女性)は、共働きの娘夫婦と暮らしている中等度のアルツハイマー型認知症です。週2回デイサービスに出かけていました。穏やかな方でしたが何事に対しても意欲がなく、簡単な仕事や昔の遊びなどに誘っても「いいわ、あんたして」という言葉が戻ってきました。

 ある日Kさんが昼食の準備をしていて「かぼちゃの面取りって難しいですね」と、つぶやきました。ふと気づくとBさんが傍でじっとKさんの手元を見ていました。「戦争のとき毎日かぼちゃを食べたわ」「・・・」「ふかして食べたのよ、さつま芋も、毎日食べたわ」「食べるものがなかったのね」「そうよ、遠い所へ買出し行ったわ」Bさんの思い出話しが続きました。気づくとBさんがまな板の上の人参を千切りにしていました。「美味しい金平を作りましょうね」2人で昼食のおかずを作りました。
 この日の出来事があってから、Bさんは毎回昼食の支度に加わっているそうです。 

 Kさんは認知症高齢者の訪問ケアに入ったとき、見守りながら1人で仕事をすることに、以前から疑問を抱いていたそうです。Bさんとのかかわりはこれでよいのかと尋ねてきました。

 認知症が始まると徐々に生活全般にわたることが1人で出来なくなります。何かやっても失敗することが多くなり、自信を失い意欲もなくなっていきます。介護者が誘っても何のことか分からないこともあるでしょう。Kさんの「かぼちゃの面取り・・・」という言葉をきっかけに、戦争中の貧しかった食料のことを思い出して話し始めた。ということは、Bさんが昔を思い出す「きっかけ」を与えたことになります。Bさんは戦中戦後、貧しい食料で家族のために食事作りをしたことでしょう。

 Kさんは無意識であったかも知れませんが、Bさんへのかかわりの中で、“回想法”を行っていました。またそのことが“再動機づけ”にもつながっています。「素晴らしいかかわりですよ」と褒めると、「この仕事に入って3年目ですが、いつもこれでよいのかと、自信のない毎日でしたが、こういう方法でいいのですね。ほっとしました。何か仕事が楽しくなりそうです」と言っていました。

 「2月のことば」で書いた方は認知症がないので、自分自身に“再動機づけ”をすることができましたが、認知症高齢者は周囲の人とのかかわりを通してでなければ、“再動機づけ”は難しいでしょう。“再動機づけ”の材料は身近なところに一杯あります。高齢者の生活暦や癖、習慣、得意だったことなどの情報があるとよろしいですが、多くの情報がなくともよく観察していると“再動機づけ”のきっかけが見えてくるでしょう。個々の高齢者がその人なりに、いきいきと生活できるような支援をしたいですね。
 何事も諦めないでかかわっていくことが大切です。

お知らせ

五島シズ著:「“なぜ”から始まる認知症ケア」中央法規出版

最新版が3月23日に発売になります。ケアスタッフ、ご家族向けに、事例を通して分かりやすく書きました。ぜひお手にとってみてください。