ひと言集

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平成19年6月21日

6月のことば

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「老いの自覚と死の準備」

 朝から激しい雨が降り続いていました。久々のフリーの日、たまった仕事を片付けようとしましたが、なんともうっとうしく気だるい。「休養も大切よ」と独り言をつぶやき、昼寝をすることにしました。夕暮れに陽がさし始めました。久々に散歩に出かけようと思い、颯爽とした出で立ちで?多摩川の土手に出ました。

 晴れるのを待っていた人達で、土手は自転車の人や足早に歩く人々で賑わっていました。早足の人の波に乗ろうとして歩き始めたら、どきどきして息苦しい感じになりました。脈拍が120を超えていました。「また失敗をした」ことに気づきました。

 朝起きるときは、充分なストレッチを行う習慣はついていますが、今日のように朝からぐずぐずしていて、準備運動もしないまま、急に散歩に出かけたことが原因です。自分がそんなに若くないということを忘れて行動してしまうことが度々あります。

 多くの人は自分の年齢と体力の衰えを認めたくない。認められないと思います。私もその中の1人です。

 Kさんは88歳の男性で、長いこと会社の役員をしていました。1年程前から転びやすくなり、検査の結果パーキンソン病と診断されました。自宅で奥さんと2人暮らしをしていましたが、奥さんが体調を崩したのを契機に施設入所になりました。

 訪問すると、「銀座で会合があるという案内が来ましたが、出かけるのは無理でしょうかね」「やあ、銀座や渋谷の灯が恋しいですね」とお元気だった頃の話をされました。

 室内でも歩行がおぼつかないために、杖の使用をお勧めしましたが、「いや・・・」とことばを濁し、杖の使用を拒みました。Kさんの中では、「杖を使うのは老人だ」という思いがあるようでした。食事以外は一日中部屋の中で過ごしていました。食堂や廊下で出会う身体の不自由な高齢者や車椅子の高齢者とは一線を画している様子が伺えました。

 あるとき、「私はここ(施設入所)に来て、いずれ死を迎えるわけですが、何か準備することがありますか」と尋ねられました。一瞬何と言えばよいか戸惑いました。「そうですね、自分史を書く方もいますね」「なるほど、親しい人で自分史を書いた方がいますよ」「書かなくとも、今までの人生を振り返ってみるという方法もあります。お一人で思い出してみる、或いは身近な人に語るという方法でもよいと思います」「そう言えば、先日眠れない夜がありましてね、そのとき色々考えましたよ。私は4人の人に助けられました。あの方たちに出会わなかったらどうなっていたでしょうね」と語り始めました。

 Robert Butlerは論文の中で「人生回顧(life review)(回想を含め)とは、死の準備期において言語的であろうと非言語的であろうと、自分の人生を鎮めようとする一つの試みを反映している普通の、ごく自然に起こる普遍的心理過程である」と述べています。また、ある学者は「追憶は、自尊心の維持、自己の再確認、個人的な損失を吟味してコントロールすることができるし、またひきつづいて、老年期に積極的に社会に何らかの役割を果たす手段にもなって、老年期における適応に成功することになる」と述べています。

 Kさんが、老いと病を受け入れて、施設で意義ある生活を送れる日が来るのを、施設スタッフやご家族と支え、見守っていきたいと思いました。