ひと言集

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平成20年3月27日

3月のことば

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「幸せな時間」
 
 97歳のFさん(女性)は、年相応のもの忘れがありました。地方で1人暮らしをしていましたが、大腿骨頚部骨折を契機に、こどもの住む町の施設に入所しました。
 
 Fさんは、骨折後歩行が難しくなり、車椅子の生活でした。難聴のため、他者とのコミュニケーションがとれず、1日の大半を、自室のベッド上で過ごしていました。

 耳元でご挨拶をすると、まじまじと見つめ「耳が聞こえないので」と困った表情をされました。こちらの言葉を、大き目の文字でメモ用紙に書くと、字を読み上げて、話し始めました。

 故郷のこと、子供の頃の思い出話、そして、骨折をして、このような状態になったことを話しました。「朝、目が覚めると、何もかもお世話にならないと生きていけないのよ。情けないわ」と、話し、今の気持ちは、「悲しく、寂しい」と付け加えました。

 趣味のことを尋ねると、「若い頃は、数学が得意でしたよ。でも今は半分ぼけてしまって、もう駄目ですわ」と淡々と語りました。「手先のこと?そうね。手芸が好きでしたね。ことに編み物ね」と細い指で編む真似をして見せました。「指も動きませんわ。上げ膳、据え膳で何にもしませんからね」「料理?好きではありませんでしたね」

 「困ること?何もありませんわ。何もかも良くしていただいて、ありがたいことです」

 しばらく向かい合って指の体操をして、また訪問する約束をし、お暇しました。

 話は変わりますが、今年も花粉の飛ぶ季節になりました。花粉症は、ある日突然始まるという話を聞いていましたが、今年はひどい花粉症で苦しんでいます。

 以前、花粉症の人がテッシュペーパーを4・5回わし掴みにとり、鼻をかむようすを見て、「もったいない、2回位とれば充分なのに」と批判気味に眺めていました。また、急に鼻水が流れ落ちて恥ずかしいと、マスクを手離さない友人がいました。

 自分が花粉症になって、初めてその辛さを味わっています。体験って何事にも代えがたいものだと、今更ながら気づきました。

 未体験の虚弱高齢者を理解することほど難しいことはありません。同じ年代でも、個人によって、環境によって、また、心身の状態によって違います。個別的です。どうすれば少しでも理解が深まるでしょう。それはご家族や関係のあった方々からの情報を得ることですが、高齢者ご本人と話し合うことが、一番だと思います。

 多くの施設で、「人手不足と業務の煩雑さのため、高齢者と向き合って、充分に話し合う時間が持てない」ということを耳にします。高齢者と話し合う方法ですが、入居した当初は、1対1で話し合うことも大切ですが、ある程度環境に慣れたら、定期的に、グループで話し合うことも1つの方法です。

 一人ひとりの高齢者の理解がきっと深まるでしょう。解決が難しいようなことでも、高齢者同志で共有することができると思います。また、高齢者の気持ちを受け止め、寄り添うこともできると思います。

 高齢者個人によって、受け止め方も異なりますが、1日に一度「よかった。楽しかった。嬉しいよ。幸せだね」どれでもよいと思いますが、こうした気持ちを味わうことができる時間を、支援できたらいいな、と日頃から考えています。

 新年度、あなたの職場にも新人が配属されるでしょう。後輩は、優しく前向きな、あなたの仕事ぶりに憧れます。忙しさに流されないように、個々の高齢者が、「ここに来てよかった」と思っていただけるような介護がしたいですね。