ひと言集

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平成20年9月29日

9月のことば

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「やさしい人」
 
 「あるとき、『お父さん私は誰?』と尋ねたら、『やさしい人』ということばが戻ってきたのよ、うちの人は私が女房だということ分からなくなってしまいました。あんなに苦労かけたのに・・・」と家族が訴えました。家族会に参加していた人たちからため息が漏れました。

 「『やさしい人』と言ってくれるだけいいのよ。うちの人は『あんた誰だね』と、きつい言い方をするので、『あんたの女房よ、こんなに面倒見ているのは女房いがいにいないでしょ』と言い返すのよ。やさしく接しようと思うけれどできないわ」

 認知症が進行すると、最近のことから昔に向かって記憶が失われていきます。「○○さん何歳になりましたか?」と尋ねたら、98歳の男性が「32歳だ、嫁を探している」ということばが戻ってきたことがあります。

 他の方ですが、鏡に映し出された自分を見て、「どこのじい様だ」と尋ねられたこともあります。

 20代、30代と思っていれば、女房はいないと思っていても不思議ではありません。自分は独身だと思っている認知症の人に、奥さんが「あなたは何歳で、私はあなたの女房よ」と現実のことを話したら、「もう少し若いのがいい」と言われたことがありました。

 こんなとき笑って過ごせる家族になるには、かなりの時間がかかります。中にはどっと疲れが出て、「もう介護したくない」などと言われます。もっともなことです。

 認知症がかなり進行して、親しい家族の顔を忘れるようになっても、感情は残っています。いつもにこやかな笑顔の絶えない女性に、「楽しいことがありますの」と尋ねたら、「楽しいことは忘れてしまうの、でも嫌なことは覚えているわ」と言うので、「嫌なことって、何?」と聞き返しましたが、眉間にしわを寄せただけで、嫌なことの具体例は出てきませんでした。

 「やさしい人」という返事が戻ってきたのは、奥さんが常日頃やさしくかかわっていた結果でしょう。長い介護生活の中で、やさしく接することは難しいことです。また、やさしくできない自分を責めてしまいがちです。

 家族会に参加した人たちは別れる時に、「皆さんからエネルギーをもらって、また1か月頑張れるわ」と言います。
 
 そして、心の中で「やさしくしよう」と思っているようです。