ひと言集

文字サイズ:

画像の説明

平成21年4月20日

4月のことば

画像の説明

「手」
 
 過日入院して手術を受けた知人を見舞った時のことである。手術後2日目で点滴を受けていた。「背中が痛むでしょう」と声をかけると「そうなのよ」と顔をしかめた。「手を入れてみますね」とベッドサイドにしゃがんで背中にそっと両手を差し入れた。ずっしりとした重い熱気が伝わってきた。「あ、あ、とても気持ちがいいわ」と知人が言った。

 「看護の“看”という字は目で見て(観察)手当てをすることですよ」50年も前に尊敬する先輩に言われたこの言葉を私は折にふれて思い出す。
 仕事をしていた頃、夜勤で回った時「身体がだるくて寝むれない」と訴える患者さんに足の裏を指圧するといつの間にか寝息が聞こえてきた。
 
 50度を超える熱い湯に入った高齢者が火傷で亡くなったという報道があった。
 温度を調整する機械の故障だったという。機械化が進み人の手で温度を確かめる習慣がなくなった結果の出来事である。

 眠れない原因の一つに足の冷えがある。高齢者に就床を促し靴下を脱がすという行為にはケアは含まれていない。そっと足首に手を(前腕)触れると冷えているかがわかる。働いている側は体中が熱く足の冷えなど感じないが、長いこと椅子に座っていると夏でも足は氷のように冷たい。人手の少ない夜間に足浴を行なうことは難しいので、足が冷えないような工夫が必要である。

 母親が乳児にミルクを与えるとき自分の前腕にミルク瓶をあてて温度を確認する。敏感な前腕は温度計の役割をする。母親の愛情から生まれた事故防止である。機械化がどれほど進んでもケアに当たる立場にある者は、五感を活用(働かせる)することを忘れないようにしたい。それは事故防止にもつながることである。

 私の手は身体に似合わず大きい、80年もの間よく働いた手だ。ふっくらと膨らんでいた手がいつの間にかしぼんで血管が浮き上がっている。でも指先は柔らかい。またどこかで役に立つときのために、この手を大切にしたい。