ひと言集

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平成21年8月25日

8月のことば

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「この道」

 プラタナスの木陰を選んで歩くなだらかな坂道は、どこまで行っても終りがないように思えた。やはりバスに乗ればよかったかな、初めて歩いた時は後悔したものである。

 歩いているうちに坂は永遠に続かない、いつか頂上にたどり着きそこから下りにつながると気づいたら急に元気が沸いてきた。上りきった場所に広がる光景を想像しながら歩いた。

 その坂道を歩くのを今は楽しんでいる。8月もなかばを過ぎると朝晩の風は涼しい。夏の終りを肌に感じながら、蝉しぐれの道を一定のリズムで歩いていく。途絶えることなく車道を走る車の音は全く気にならない。間もなく穂を出すススキの間に白百合が咲き乱れている。

 人もそれぞれの坂道をゆっくりとあるいは急いで登り、上りきったところから緩やかにまたは急激に下って行く。人生も坂道のようなものだ。

 能天気な私は、辛かった記憶というのが遠くかすんでいて思い出せない。反面楽しかったことは殆んど覚えている。きっと楽しかった出来事の方が辛かったことの何千倍もあったのだろう。あるいは昔から言われているように「苦労を苦労と思わない性分」なのかもしれない。

 20代から30代の頃は看護の仕事を選んだ自分に疑問を抱いたことがしばしばあった。何か他に自分にあった仕事があるのではないかと迷った。迷っているとき必ず病気になった。病気になると職場の人や周囲の人に迷惑をかけた。また大勢の人から暖かな支援や励ましを受けてきた。辞められない。

 その後40代半ばに仕事を離れ家事に専念することにしたが、1ヶ月で仕事を持たない主婦の生活に行き詰ってうつ状態になってしまった。

 3ヵ月後仕事に復帰した。そこで「水を得た魚」のような自分に向き合うことができた。以後迷うことはなくなった。私の好きな武者小路実篤の詩に次のような一節がある。

 この道より
 我を生かす道なし
 この道を歩く