ひと言集

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平成22年4月19日

4月のことば

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「不安の中で生きている」

 Aさんは夫と午前中に隣町へ買い物に行き昼近くに戻ってきた。家の近くで大きなトラックに出会い気をとられているところへ近所の人に声をかけられた。ふと気付くとAさんの後についてきたはずの夫の姿が見えない。最近1人で出かけて家に戻れず交番に保護されたことがあったので、Aさんはかなり気にかけていた。

 そんなに遠くに行っているはずはないと思い、近所の人と手分けして探したが見つからなかった。交番に届けて待つきり方法はなかった。「家にいる時は、いつも私を目で追っているのでうっとうしいのよ」といつも思っていたが、いざいなくなったら心配で何も手に付かなかった。

 その夜10時過ぎに親戚から電話があった。夫が昔暮らしていた場所の近くの交番に保護されているという知らせだった。その場所は自宅からかなりの距離があった。どの道を行ったのか、その間ご飯を食べたのか、水は飲んだのか、トイレはどうしたのだろう。Aさんは不安な気持ちで夫を迎えに行った。会った途端「どこへ行っていたのだ、迷子になったら駄目だろう」と夫が言った。それはこちらの言い分よ。と思ったがあまりにも哀れに思えて「ごめんね。お家に帰ろうね」と言った。

 巡査は「礼儀正しい方ですね、どこが悪いんですか」と言った。自宅の電話番号は分からなかったが、兄弟の家の電話番号を巡査に伝えることができた。

 「迷子にならないように、ご主人の後にAさんが付いていくのはどうかしら」と話すと「認知症になる前はそうだったのよ。主人の後に私がついて行くという、でも認知症になってからはわたしの後に付いてくるようになってしまったのよね」

 30年も前のことだったが、若年認知症の夫が妻の後を必死でついて行く姿を見て、手をつないで並んで歩いたらよいのにと思った。高齢の方の多くは手をつないで歩くという習慣はない。「恥ずかしい」と言う人もいる。遠い昔のことになってしまったが、女性は男性の後について歩くというのが当たり前の時代があった。まして人前で手をつなぐなど考えられなかった。

 妻の前を歩くといっても現在の自分の居る場所がどこであるかおぼつかない。行く先を言われても忘れてしまう。どうしたらよいのか「不安」だから妻の後についていくきりない。この頃になると家の中でもちぐはぐな言動が多くなり、妻にきついことを言われることもある。でも見慣れた馴染みのこの人(妻)に頼るきりないのだ。Aさんの夫が常に妻の姿を追い求めるのは「不安」だからである。