ひと言集

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平成22年7月20日

7月のことば

豪雨の被害が多く大変な思いをしている方々にお見舞いの言葉をお送りいたします。

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「きっかけ」

 「私あちこち悪いところばかりで、もう辛くて早くお迎えが来ないかと毎日思っているのよ」80歳半ばのAさんは身体面の疾患が重なり痛みや歩行障害などで苦しんでいる。手先が器用で意欲的なAさんは不自由な身体で手芸、俳句、新聞作りなど他の入居者と協力して活動している。そんなAさんの弱音である。

 繰り返し生きているのが辛いと訴えていたが、植物の話題に変えると「トマトを種から育てて実がなったのよ」と打って変わった明るい表情になり、ベランダのトマトの鉢に案内してくれた。

 数日後ベッドサイドでも育てることが出来る「貝割れ大根」の種を届けた。

 Aさんは自分に対して自ら動機づけをすることができる人であるが、動くのが辛い状態になっても、ベッドサイドで「一粒の種から芽が出て茎が伸びて双葉が出る」そのエネルギーを見て辛い身体状態の中にも一抹の喜びを感じる時間を持ってほしいと思った。

 廊下ですれ違いに挨拶した時、思わず「あっ?」と言ってしまった。5年前に入居したBさんの表情に驚いた。「何かありました?」と尋ねると「やあ、コーラス部に入りましてね。ボランティアにも出かけていますよ」と自信に満ちた明るい表情で答えた。

 Bさんは妻に先立たれ、ご自分も病気をされて自立を失い、長いこと自暴自棄になっていた。スタッフもBさんの辛さは理解できたが、どうしようもなく日時が過ぎていった。Bさんは声が良くカラオケに参加した時はマイクをにぎって歌を披露していた。

 そんなBさんにコーラス部から声がかかり参加することになった。Bさんの自尊心は高まり前向きな生活に変わってきたようだ。スタッフからも「大分変わりましたよ」という声が聞かれるようになった。

 誰でも幸せによりよく生きたいと思っている。しかし忍び寄る老い、心身の病気のための痛みや行動制限、思うようにいかないことばかりである。そうした状況の中にいると、時に自暴自棄になったり、死にたくなったりする気持ちは理解できる。しかしちょっとした「きっかけ」で人は自分の障害を受け入れ活き活きとした時間を取り戻すことが出来る。人間は本当に素晴らしいと改めて感じている。