ひと言集

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平成23年7月25日

7月のことば

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「本来の姿」

 午後のカンファレンスの時間、数人のスタッフに交じって重度認知症のMさんとTさんが参加した。Mさんは目覚めている間中「わ、わ、わ、う、う、う、」と額にしわを寄せて時には泣き声で何かを訴えている。「辛いことがあるのね。辛いね」と声をかけると、時には「あ、あ、あ、あ」こたえのような発語が戻ってくることもある。この状態は3年前に入居した当初から続いている。

 若年認知症のTさんは痩せて小柄であるが一時もじっとしていられない、独り言を言いながら、時には歌を唄いながら廊下を激しく歩き廻っている。気分に変化があって穏やかな時、機嫌のよいとき、怒りっぽいときなど一日中変動が激しい。

 約30分カンファレンスは続いた。真剣な表情で意見交換をしているスタッフ。真正面に車椅子のMさんがいた。いつもの苦渋に満ちた表情は想像もできない程にこやかだった。

 Tさんはなじみのスタッフと手をつないでの参加。その表情は見えなかったが、最後まで穏やかにしていて、徘徊する様子は見られなかった。

 病院や施設では多動な入居者(患者)がいなくとも落ち着いたカンファレンスの時間を持つことは容易でない。

 この施設はデイルームとスタッフルームの間に低いカウンターがあるが入居者側から見るとスタッフルームとの間の壁はないも同然に見えるのだろうか。Tさんは徘徊中にスタッフルームを通り抜けることがあるが、スタッフは咎めない。Tさんはパソコンに触れることはないし、大切なものや危険なものは目の届かないようにしているという。

 スタッフが認知症の人のケアに十分慣れるまで苦労が多かったと思うが、今は認知症の人と気持ちが通っているように見えた。

 カンファレンスに参加していたMさんとTさんは「別人」のように見えた。いや、この姿が本来のお2人の姿なのかもしれない。