ひと言集

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平成23年11月16日

11月のことば

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「拘束」

 88歳(女性)の知人が脳出血で倒れ入院したという知らせを受けて、2週間後入院先の大学病院の急性期脳卒中治療病棟へ面会に行った。意識は戻っていてこちらが誰であるか認識し「忙しいのにすみませんね」という。持続点滴中なのか両手にグローブをつけ、身体はベッドに拘束されていた。急性期病棟だから拘束はやむを得ないのだろうと思った。

 6週間後転院の知らせがあったので面会に行った。郊外の静かな町のはずれにある5階建ての病院だった。5階の処置室に車椅子に乗って鼻腔栄養中だった。

 挨拶をすると「あ!」というように表情が変わった。ナースに口から食べられないのか尋ねると「食べられたり食べられなかったりとむらがあります」ということだった。間もなく経管栄養が終わったので、車椅子のまま面会室へ移動した。窓からは緑の多い町が秋の陽射しの中に広がっていた。病院の裏手には森が続いている。

 襟元に鍵のかかるボタン付き抑制衣を着て、両手にグローブをつけ、身体は車椅子にがっちりと抑制されていた。

 「どうしてこんなになってしまったのかしら」とつぶやく。脳出血で倒れ入院していることを話すと「そうだったの?」と初めて聞いたように言う。息子や娘の話をしていたが、「死にたい」とつぶやく。「病気は辛いね」と返すのがやっとだった。

 足が不自由だったが家事はすべてこなしていた人である。倒れた前後のことは覚えていない。聞いても理解できない。現実とつながらない。身体の自由を奪われている現実、知らない人たち。「何故、何故どうなっているの?」の連続であろう。

 40分ほどして病室に戻るとスタッフが見当たらない。元気な声が聞こえてくるので探すと廊下を隔てた小さな休憩室?に4、5人のスタッフが談笑していた。「あのー」と声をかけると一人の男性スタッフが出てきた。「3時間ほど車椅子で過ごしたのでベッドに寝かせます」という。

 4点柵の一部を外してベッドに移しベッド用の抑制をした。一連の行動はまるでマニュアルに沿って行っているようで、面会人の前でも躊躇する様子は見られない。4人の部屋なので他の人たちに挨拶をしたが誰も反応はなかった。

 口から食べられないのか再度尋ねると「誤嚥のリスクが大きいので、近いうちに家族と相談して胃瘻にするか検討する予定です」という。拘束のことを尋ねようとしたがやめた。帰路何とも言えない無力感に襲われた。