ひと言集

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平成24年5月16日

5月のことば

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「女性と眉」

 挨拶すると「まあ・・・」と笑顔で答えてくれた。しみじみとこちらの顔を眺めて、「眉、きれいに引いてますね。私も眉を書こうかしら」とつぶやいた。96歳になったCさんは、少し癖がある黒髪のせいか年齢よりも若々しく見える。はっきりとした顔立ちだが眉はほんのわずかしか残っていない。

 Cさんは6年前に入所した。寸前のことも忘れる状態で、物の置き忘れ、仕舞い忘れが多く目覚めている間はいつも探しものをし、見当たらないと「盗まれた、泥棒がいる」と騒ぎ立てている。ものを盗られたという訴えは、入所時いやそれ以前から続いている。月に1回きり訪問しない私と話すときは何事もないように「取り繕う」ことが多い。

 Cさんが化粧を始めて少しでも落ち着いた穏やかな生活が送れるようになればよいがと願わずにはいられない。しかし、化粧品を片付けた場所を忘れて「盗まれた」ということになるかもしれない・・・

 入所時すでに重度の認知症の状態だった83歳のSさんは、4年の経過の中でさらに進行した。入所時ケアに対して多少の抵抗が見られた。現在は全面介助であるが、Sさんのペースでケアすれば全く抵抗がない。デイルームの椅子に座って目を閉じていることが多い。誰が声をかけてもめったに目を開けてくれない。

 閉じた目の上の「眉」が長く綺麗に引かれていた。唇にはリップクリームが塗られ、きりっとした表情に見えた。担当のスタッフが来たので「あなたが化粧してあげたの?」と尋ねると「はい」と返事が戻ってきた。

 Sさんは長いこと高校の教諭として活躍していた方である。70歳を過ぎたころから認知症が始まり、徐々に生活の自立を失い夫の介護を受けていたが、夫も高齢なため共に入所となった。夫は車椅子の生活だが食事介助を受けているSさんの前の席でSさんをいとおしげに眺めながら食事をしている。

 入所当時はSさんに対するスタッフのケアが気にいらないようで度々苦情を漏らしていたが、最近は「何もかも本当に良くしてくれます」という言葉が戻ってくるようになった。

 「眉」のことで思い出した。35年も前のことである。うつ状態で入院していた82歳のMさんを訪問すると、Mさんが「あのーマッチありますか?」とためらいながら小声で言った。一瞬「マッチ?」と思ったが「はい、直ぐにお持ちいたします」といって、火をつけてすぐに消したマッチ2本と手鏡を届けると「あら・・・」と恥じらいの表情で受け取った。ベッドの周りのカーテンを引いて「後程お伺い致します」といって離れた。

 入院来苦渋の表情が続いていたMさんの表情が「眉」を引いただけで活き活きと感じられた。同居のお嫁さんに連絡してMさんの化粧道具を届けてもらった。それから間もなくMさんは退院となった。

 女性の多くは毎日「眉」を引いているのではないだろうか。入院して体調が悪いときは化粧どころではない。気分がよくなったとき「眉だけでも引きたい」という女性によく出会う。