ひと言集

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平成25年5月22日

5月のことば

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「つれあいを失う」

 80歳を過ぎたご夫婦が相談に来られた。背が高く痩せ型の夫とやや小太りで杖をつく妻。椅子に掛けるなり妻が話し始めた。「うちの人認知症じゃないでしょうか、よく忘れるんですよ」と。「この人が認知症になったら、私は両膝が悪いので一人では生きていけないんですよ。この人は足が丈夫で今日も家から病院まで歩いて来たんですよ。(約5キロの道のり)私がバスで病院に着いたらもう先に着いていました。今は私がこんなですから買い物に行ってくれたり、いろいろ手伝ってくれますが、認知症になってしまうのではないかと心配で・・・」と話が続いた。

 傍らで聞いていた夫は困ったような表情をしていた。「足が達者なようですが運動はお好きですか」と尋ねると「歩くのは好きですね。どこへ行くにも歩きですよ」と笑顔で答えた。家では買い物や掃除、料理のあと片付け、小学校へボランティアに出かけたりしていると話す。また「最近本を出版しましてね。あまり売れませんが・・・いや、パソコンは便利ですな、分からないことをすぐに調べられて良い時代になりましたな」と終始笑顔。「うちの人の本はむずかしくて読んでもちっともわからないんですよ」と妻が口を挿む。「ともかくこの人に先に死なれたら私は困ります。ところであなたのご主人は?」と質問してきた。「20年前に見送りましたのよ」「あ、あ、20年前ね。若い時は相手に死なれてもエネルギーがあるから乗り切れるのよね。今の私はだめだわ」と・・・

 今のところご主人は年相応のもの忘れだと思うが、心配だったら一度検査を受けるように勧め、困ったときはいつでも相談に来てくださいと伝えた。

 最近入居したAさん(72歳)を2度ほど訪問したがいつも電話中や面会の方がいたのでゆっくりお話をする機会がなかった。入居当初はひどく痩せていて歩くのがやっとという状態であったが、少し歩行がしっかりしてきたように観察された。訪問するとベッドに臥床していたが起き上がり「何ですか?」という表情をした。ご挨拶が遅くなったことを詫びて、少しお話してもよろしいか伺うと「どうぞ」という。椅子に掛けて、ベッドの上の掛け物に目をやる。美しいキルティングの掛け物だった。「あなたがお作りになったの」と尋ねると「亡くなった姉が途中まで作ってあったのを私が完成させたのよ」「まあ、宝物ですね」身の回りにご自分の作品らしいものがあり、テーブルには毛糸が乱雑に置かれていた。

 「少しふっくらとなりましたね」と声をかけると「私、主人が昨年の暮れに亡くなって20キロ痩せましたのよ。でも充分世話をしたから思い残すことはないわ」と笑顔を見せた。間をおいて「病院は看護師さんが若いでしょう」と言って口をつぐんでしまった「あ、あ、」と急に頭を抱えてベッドに突っ伏し「主人が死にそうなのに、若い看護師さんが2、3人集まって大きな声で笑っていたのよ・・・」と話し泣きだした。「辛かったですね」と声をかける以外に言葉が見つからなかった。しばらくして「もう大丈夫」と寂しげな笑顔を見せ「また来てくださいね」と言った。定期的にお伺いすることを約束して辞した。