ひと言集

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平成25年9月24日

9月のことば

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「盗食と個別ケア」

 ある施設で盗食をする認知症の方が4人いた。頻回に食事の催促をし、食事が待ちきれず他の人のテ-ブルに行き手づかみで食べてしまう。一番早く食事をお出しするといち早く召し上がってしまい、遅い方のテーブルに行って食べてしまうので目が離せず困っていた。

 男性3人と女性1人だが4人とも痩せている。女性は車椅子で粥食、男性の1人は嚥下障害があり胃瘻である。男性の2人は自由に移動できる。1人1日の総カロリーは1500キロカロリーである。

 全面介助が必要な方も、目覚めている間中歩き廻っている方も同じカロリーである。入居された時点より数キログラム体重が増加して、明らかに肥満と思われる方もいる。

 胃瘻の男性は経口摂取している入居者と同じテーブルで過ごしている。胃瘻であることをどこまで理解しているか分からない。常に「ご飯はまだか」と催促をしていた。食事の匂い、他の方の食べる様子を目前にしているが、自分の前には食事が来ない。(胃瘻に入っているのだが)そこで手を出して近くの方の食事を口に入れる。重度の嚥下障害があるので吸引が必要になる。

 この場合環境への配慮が足りないと思う。他の方が食事をしている場に居れば、口から食べたいという欲求があるのは当然であろう。食事の時間が近づいたら他の場所への移動、もしくは他の胃瘻の方たちと同じ場所で過ごせるような配慮が必要であろう。

 食事に対して一律1500キロカロリーとするのも問題がある。個人の身長、活動量などに合わせて個別に対応することが望ましいと思う。何らかの疾患のため食事制限がある場合を除けば、食事への欲求を満たしていきたい。

 以前のことであるが始終「腹へった」と訴え、盗食・異食のある90歳を過ぎた男性がいた。重度の認知症の方で集団活動はできず、目覚めている間中施設の廊下を歩き廻り、時には他者の部屋に入り目につくものを持ってきたりした。米農家の旦那であった。ご挨拶をするたびに「今年のお米の出来栄えはどうですか」と尋ねると「今年は日照りも良かったので豊作だ。日本人は米さえ食べていればよいのだ」と笑顔で言うのが口癖だった。

 あるとき面会に来た娘が「父は焼きむすびが大好きです」と告げた。スタッフは早速栄養課と相談し、常におむすびを冷凍しておき、「腹へった」と言ったら目の前で焼きむすびを作り提供した。集団活動はできなかったが、スタッフと一緒に施設周辺の落ち葉を掃き集めたりした。近所の農家の人がジュースを振舞ってくれたりしてご機嫌な日々を過ごすことができた。活動的な方だったので常に見守りが必要であったが、盗食・異食は改善された。

 盗食・異食・過食などが起こる時期がある。注意したり説得したりしても意味はない。スタッフとの関係が悪化するだけである。身体疾患があれば医師と相談する必要があるが、こうした状況は長くは続かない。やがて食べられない時期がやってくる。食事の形態、量、環境なども含め、個々の人の欲求を満たすことこそ個別ケアである。