ひと言集

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平成26年3月19日

3月のことば

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「孤独へのケアを考える」

 廊下の片隅のテーブルに向かって、ミキサーにかけたおやつをスプーンですくいながら、何やらわめいているA子さんがいた。スプーンですくった食物の半分は口に入れる前にエプロンに流れ落ちていた。右に偏った姿勢で大きな声で叫んでいるためだろうか。近づいてA子さんに声をかけるとこちらを見てスプーンを持った手を伸ばした。おしぼりで口の周りと手やエプロンを拭いた。瞬きもしないでこちらを見つめている。

 スプーンに適量のおやつをすくっているのを見て口を開けたが、右手に持たせて「どうぞ」と声をかけるとご自分で上手に口に運んだ。同じことを繰り返している間に「何年生まれ?」と尋ねると「5年生まれ」「午年ね、可愛い仔馬さんだったのね」というと笑顔になって「姉は2つ上よ」と言い4人兄姉の末っ子だと続けた。聞き取りにくかったが集中すればなんとか意味が理解できた。

 A子さんは脳卒中後左半身に重度のマヒがあり車椅子の生活が続いている。疲れやすくベッドへの臥床を希望することが多い。目覚めている間は頻回にナースコールを押した。訪問して希望のケアを行なって部屋を出るとまた鳴らすということが続いていた。

 お子さんがいないAさんは数年前にご主人と死別した。ご兄姉も亡くなり、親戚の人が後見人になっているが、その方もかなりの高齢で面会に来ることはない。末っ子で甘えて育ち、結婚後もご主人に可愛がられ周囲の人たちに慕われて過ごしていたようだが、高齢になって家族や親しい友人などを失いご自分の健康も失って思うように行動できないA子さんは、常に寂しく不安な思いでいるのだろう。近づいて交流を持っているときは落ち着いて穏やかな表情だ。帰るときは必ず手を固く握り「また来てくださいね」と念を押すのが常だった。

 87歳のB子さんも脳卒中後左半身に麻痺が残り車椅子の生活である。B子さんには一人息子がいるが多忙でめったに面会に来ない。B子さんは気分に変動があり「役に立たないから死んでしまいたい」「寂しい、どうすればいいの」「早くお迎えが来てほしい」などという発言が多い。

 サービスステーションのカウンターにいたB子さんに声をかけると「まあ久しぶり」と弾んだ声が戻ってきたが「わたし眠ると悲しい夢ばかり見るのよ」と悲しそうな表情になった。「お休み前に昔の楽しかった出来事を思い出し、幸せな気分で眠りに入るといいのよ」と伝えると「ああ、いいこと聞いたわ、今日から早速やってみます」と笑顔になった。

 どこの施設にもA子さんやB子さんのような方はいる。限られた数のスタッフは日常のケアや複雑な業務に追われ、じっくりと向き合ってお話の相手になる時間がないという。

 孤独との付き合い方の上手な高齢者もいるが、上記の方のように孤独に押しつぶされてしまいそうな方もいる。「孤独へのケア」を考えていかなければならないと思った。