ひと言集

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平成27年9月24日

9月のことば

2015年9月の画像

「適応への糸口を探そう」

 言語障害を伴い言葉で表現することの難しい若年認知症のB子さん(54歳)は病院の廊下を素足で終日歩いている。靴下もスリッパも嫌い?なようで、履かせても直ぐに脱いでしまう。時折デイルームの椅子に掛けるが数分で立ち上がり再び歩き廻る。上背があって姿勢もよいB子さんは、高齢者の多い認知症治療病棟には不釣り合いな感じがする。

 入院して2か月目に入り声掛けに笑顔で応えるようになってきたB子さんだが、入院当初は、失禁のケアや入浴ケアの際にいきなりスタッフへ「びんた」が飛んできた。
 在宅や施設でケアが難しい状態の人が入院している治療病院なのでスタッフは、なぜB子さんがそのような行動をとるのか理解していた。
 入院による急激な環境の変化、知らない人に身体に触られる恐怖や羞恥心などがあると思い、いつものように「なじみの関係づくり」をすすめ、必要なケア以外はできるだけ自由に行動できるような支援をした。B子さんは顔なじみの人が増え、不安や恐怖心が薄らぐとともに暴力は消失した。他にも課題はあるが徐々に解決の方向に持っていこうとスタッフは考えている。

 入院して6か月を過ぎたC子さん(85歳)は自由に歩くことができた。スタッフの姿を見ると「可愛いね、ここに来てよ」という。仕事に追われているスタッフは「またあとでね」と去ろうとすると「きっと来てよ、寂しいのよ」という。歩いているときも女性スタッフに近づき腕につかまり体をすりよせて「この人好きよ、いい人よ」と、C子さんは甘えた口調になる。スタッフとの関係は良いが、周囲の女性患者を突然叩く、ご自分の食事が済んだあと他者の食事を摂って食べてしまうなどの行動が目立つので、スタッフは目が離せない。対応の方法を度々話し合い工夫したが変わらなかった。

 しばらくC子さんと過ごすと、目の前のテーブルにいる女性患者をさして「あの人好きよ、こっちの人もね」と女性患者を指さした。C子さんの隣りに男性患者がいたが、C子さんは2人の間を極力離すようにテーブルの端に座っていた。2人の間には全く交流がなかった「この人変な人よ」と隣りの男性を指さし小声で顔をしかめた。「どうしたの?」と尋ねると「用心しないとね」と付け加えた。ほとんど話さず周囲への関心もないようすだ。

 C子さんの認知症はかなり進行している。歩けるがトイレ誘導は必要である。食事は何とか自力で食べられるが、歯のないC子さんは粥と刻み食だ。スプーンを持たせるとスプーンを持ち替え、背の方ですくおうとするので食物がすくえない。スプーンを正しく持たせると食べ始めたが、途中でテーブルの端をスプーンでたたく行動があった。

 C子さんの言動から、男性への不信感?があるように思えた。日中デイルームで大勢の人達と過ごしているが、C子さんにとっては知らない人ばかりのようだ。C子さんから他の患者に話しかけることはない。大勢の中に居ながら孤独で寂しい。断片的な環境の中で度々やさしい声掛けをしてくれる馴染の女性スタッフが唯一のよりどころのようだ。

 認知症といっても進行の程度や個人のライフステージ、個性、環境など様々な要因で生活適応が異なる。ひとり一人をよく観察してその人に合わせたケアを諦めず丁寧に行ない、地域や施設でその人なりに生活ができるように支援をしていきたいとスタッフは思って日々のケアを行なっている。