ひと言集

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平成28年2月3日

2月のことば

2016年2月の画像

「得意なこと」

 ご夫婦で施設に入居している79歳のA夫人は、現実には見えない煙が見える。臭いがするとご主人に言い寒中でも窓を開けることを繰り返していた。レビー小体型認知症である。人前ではごく普通に振舞えるので他人には理解できなかったが、ご主人はA夫人の症状に振り回され、時にはトラブルに発展したりして苦しんでいた。A夫人は体験したことを忘れるなど、もの忘れは目立つようになってきた。外出好きだったが最近はご主人に誘われても、いろいろと理由をつけて出かけようとしない日々が続いていた。

 施設での生活は掃除や食事作りなど主婦としての生活から解放された反面、時間を持て余すようになっていた。好きなアクティビティへの参加はしていたが・・・

 あるときご主人が検査のため入院した。日常生活はほぼ自立していたAさんであるが、薬への拒否があったので薬の管理はご主人が行っていた。この機会にAさんの服薬管理をスタッフが行うことになったが、Aさんは特に抵抗する様子もなかった。

 たまたまスタッフが数式パズルを見せたところ「私は経理の仕事を長いことやっていたから数字には強いのよ」と言い真剣にパズルを始めた。パズルに熱中する時間が長くなると、煙や臭いのことを訴えることが激減した。専門医から処方された薬を服用してもあまり効果がなかったのに、得意なことに熱中したことで生活が改善された。誰よりも喜ばれたのはご主人だった。
 
 アルツハイマー型認知症のB氏(94歳・男性)はデイルームで終日新聞をめくったり、広告を見たり?していた。挨拶をしても視線を向けるだけで言葉は戻ってこなかった。スタッフや他の入居者とも全く交流を持たない。歩行がおぼつかないので、もぞもぞと体を動かすシグナルがあるとスタッフがトイレに誘導する。食事は何回か声掛けをするとゆっくりと食べ始める。B氏なりのペースがあるようで毎回50分くらいかけて全量召し上がる。ご家族からの情報では、B氏は認知症になる前から寡黙な方だったという。難聴ではあるが耳の近くで簡潔な言葉で話すと頷くが言葉による返答は稀であった。

 いくつかのアクティビティに誘っても参加したことがなかったが、習字教室の場に連れて行き、B氏の前に習字の準備をしたところ、筆を取ってお手本を見ながら文字を書きあげた。立派な文字であった。後日「習字は得意ですか?」とB氏に声をかけると、大きく頷いた。

 認知症の人のケアをすすめるなかで、個人のライフステージを知り現在何歳くらいのところで生活をしているか、その年代に何をしていたか、得意だったことは何かを知り働きかけを行うことの大切さを改めて確認した。