ひと言集

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平成28年2月23日

3月のことば

2016年3月の画像

「高齢者虐待について思う」

 「はい、自分のことは自分で書いてください」書類とボールペンを差し出したのは30歳代の男性、受け取ったのはかなり高齢な男性である。受けとってからしばらく眺めていた「早く書いてください、ここは名前、ここは生年月日、え、違うでしょう、誤魔化しちゃ駄目ですよ」「家族はいないでしょう。今日は何年何月何日ですか、はい、よくできました」「痛いところはどこですか、○をつけてください。え、お尻?違うでしょう。ま、いいか」
 
 整形外科外来の待合室での出来事である。明らかに施設に入居している高齢者をスタッフが受診に連れて来たようだ。高齢者は終始一言も発していなかった。その後高齢者が立ち上がって歩き始めようとしたら、「どこへ行くんですか?」と高齢者の上着の裾を引っ張った。高齢者は振り向いて「トイレ」とかすかな声で答えた。座席の前にトイレの場所が明示されていた。高齢者がトイレから戻ったとき「急に立ち上がらないでください。びっくりするじゃありませんか」と。

 施設や在宅での高齢者への虐待の問題は、以前からあったことであるが、ある有料老人ホームで信じられないような虐待が起きたことで、改めて高齢者への虐待が問題視されている。

 先に挙げた整形外科外来の待合室での高齢者への対応がどこでも起きているとは信じたくない。

 高齢になって健康を失い、身寄りを失いやむなく施設に入居した高齢者の多くは、世話になることに対してどれほど情けなく、また申し訳なく思っていることだろう。そうした高齢者に対し「あなたは介護を受ける側、わたしはあなたを介護する側、わたしの言う通りにしなさい」ということが、暗黙の裡に高齢者に伝わっているために、立場の弱い高齢者は何も言えない状況に立たされている。

 また、言葉の端端に高齢者を蔑視していることが伺えた。これほど屈辱的なことはない。立派に生きてきた高齢者にとって情けないことである。30歳代のこの男性は自分が虐待をしているとは微塵も思っていない。こうした言葉による虐待は意外と多い。

 人手不足と賃金が安いということは長いこと言われているが一向に改善されない。そうした環境の中でも施設で働いている多くのケアスタッフは優しく親身になって高齢者の介護を行っている。

 スタッフの出入りの多いこの職場では就職時の教育を始め、折に触れて教育が必要である。個人的な感情を抜きに「虐待のない介護」について日常的に話し合いを行い、解決策を講じていくなどの対策が求められると思う。