ひと言集

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平成28年9月7日

9月のことば

2016年9月の画像

「剥がれた履物の底」

 若年認知症家族の会で、認知症の方と家族、ボランティアを含め30人ほどでSビール工場へ見学に出かけた。曇った蒸し暑い7月末のある日のことだった。工場近くの博物館を見学して昼食を済ませ工場に着いた。

 案内をしてくれたのは40歳前後の女性だった。終始変わらない優しい笑顔、その滑舌のよさ分かりやすさにもっぱら感心しながら付いて行った。見学が終わり、ビールを試飲する場に着いた。

 元来アルコールに弱い私は「参加者に不調があったときは私に任せて。救急に必要な物品を持参するわ」と言っていた看護師が出発直前に急用ができて参加できないことになったので、今日はジュースにしておこうと思っていた。ところが試飲会場でも先程の案内者が、3種類のビールの違いを是非味わってほしいと言葉巧みに説明した。認知症の方も家族もみんなニコニコ、やや興奮気味でビールを飲み始めた。躊躇する私に「美味しいよ」と声がかかった。ジュース?いややっぱりビールだ。と迷いは吹き飛んでしまった。中ジョッキ1杯のビールは美味しかった。これで終わり。と思っていると、「2杯目のやや軽い味これもいいね。3杯目コクのあるこの味最高、飲み比べてはっきりわかるね、ちょっとだけ飲んでごらん」とテーブルメイトにすすめられて意思の弱い私はグラスに少なめに注いでもらった。なるほど1杯目と味が違うということは私にもわかった。ちょっと多いなと思ったが残すのは失礼と思い飲み干してしまった。

 少し酔った気分だったが、緊張して帰路のバスに乗った。最寄りの駅で解散になった途端急に酔いが回った。いつもよりビールを多く飲んだことを後悔しながら自宅の近くの駅に着いた。電車から降りた途端右脚の靴に異変を感じた。靴底がパックリと剥がれて足先だけがかろうじて付いていた。やっとの思いでエスカレーターに乗り駅構内の椅子のある場所にたどり着いた。

 25年も前に買ったメッシュのこの靴は、履きやすく涼しいので大好きな靴のひとつだったが、雨の日は履けないし黒ということで一夏に1~2回履くくらいだった。

 1時間程椅子に掛けているいうちに酔いがさめてきた。自宅玄関前まで行くバスが来たので右脚を引きずりながらバスに乗って無事に帰宅できた。

 後日仲良し数人と昼食を摂りながら、靴底が剥がれた話をしたところ「私も大変な思いをしたことがあったのよ」と1人の友人が語った。息子の結婚式の時、めったに着ない留袖を着て、草履を履いて会場に入ろうとしたところで草履の底がパックリと剥がれてしまった。替えの草履はないしどうしようと困っていたら、付き添いの方が紐を持ってきて剥がれた草履の底を縛ってくれたので、その場をしのぐことができた。ということだった。

 「高価だった履物も長いこと履かないでいると糊が劣化してしまうのよね。私たちの体も同じよ。常に無理のない程度に全身を使っていないと劣化して動けなくなってしまうわ」とお互いに共感し合った。