今月のひと言

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平成29年9月7日

9月のことば

2017年9月の画像

「辛抱強い見守り」

 アルツハイマー型認知症と診断されて数年が経過した85歳のFさん(女性)は、4人のこどもの家を転々として介護を受けていた。現在は東京で息子と暮らしている。

 当初、軽度認知症グループのデイサービスに参加したが、時々混乱して大声で叫び、周囲の人が理解できない行動をとることがあったので、家族と相談のうえ重度認知症のグループに移った。

 Fさんは、身長は150センチ位で痩せていた。食事やトイレ誘導などのケアに対しては抵抗がなかった。黒いリュックサックを前に掛けて座っていて、他者との交流を持つことは少ない。食事の時、スタッフがリュックを椅子の背に掛けるよう勧めたが無言で拒否した。食事はゆっくりだが全量召し上がれる。

 気分の変動が激しく、自分の中に閉じこもったように周囲の動きやスタッフの声掛けに応じないかと思うと、他の利用者と一緒に大きな声で歌を歌い冗談を言ったり、得意だという体操に元気よく参加したりする。しかし、一旦興奮が始まると手の付けようがない。
スタッフは嵐が通り過ぎるのを辛抱強く見守っていて、Fさんの些細な変化をとらえ「トイレに行きましょうか」と誘いトイレに誘導すると、それをきっかけに興奮が収まることがある。

 他の利用者はFさんの行動にほとんど関心を示すことなく、スタッフの誘導でその日のプログラムに参加している。

 家族会の席でFさんの家族から自宅での様子を尋ねると、沖縄で生まれ育ったFさんには4人のこどもがいるが、子育てをした当時のことは全く覚えていないという。現に息子と同居しているが「あんたは息子ではない」と言っている。自宅でも気分の変動が激しく、興奮したときは「ああ、あそこに人が死んでいる、血が流れている。ああ、大変だ」というようなことを口走り、興奮状態は1~2時間続くという。「人は死んでいない。大丈夫だよ」と家族が話すとますます興奮が激しくなるので、最近は興奮が始まったら雑誌を持ってトイレに避難し、興奮が収まるのを待っているということだった。

 Fさんが興奮するのは、沖縄戦当時に記憶が戻ったときに起こるように観察されたが、家族もスタッフも当時のことはニュースなどで知っていても実感がない。「大変でしたね。怖かったですね」と共感しても、不安と恐怖の中にいるFさんの耳には入らないのだろう。

 「貴女のことを気にかけていますよ。お困りのことがあったらお手伝いさせていただきます」という辛抱強い「見守り」が今のFさんには合っているようだ。

 母親のことを大切に思っている家族は、インターネットなどで認知症に関する情報を得ている。落ち着くような薬を与えれば副作用があることなど詳しい。また、できるだけ長く在宅介護を続けたいと思っているようだ。

 ケアマネの勧めでFさんは週6日デイサービスを利用している。家族は土・日仕事が休みなので土曜日をストレス軽減の日に充てているという。ケアマネやスタッフとそれなりの信頼関係ができているので、いずれショートステイなどの利用も加えて、在宅介護が長く続けられるよう支援をしたいと施設側は考えている。